2008/05/28

「恵みの雨」1 めぐみのケーススタディ


戸越駅に着き、地下鉄の階段を上がって約束の場所に着いたときは、すでに西の空に重たい雲が迫ってきていた。朝は快晴だったのに、そのとき傘を持ってくればよかったと思った。
「はじめまして、若村です。」今日会う予定のめぐみとは、そこですぐに会えた。
「お天気、なんか怪しいですね。」と彼女も空を見てぼくが感じたことと同じことを口にした。
午後2時、彼女のお気に入りの喫茶店がなぜか満席だったので、仕方なく国道沿いのチェーン店のドーナツ屋に入った。
佐山めぐみ、32歳、主婦。ぼくのサイトではレイプ願望があるMオンナというプロフィールを出している。幼稚園の娘が一人いて、中肉中背。髪を横に分けていて、顔や立ち姿にとりわけ落ち着きと品がある。その反面、花柄のふわっとした丈の短いワンピースに、いま流行の黒のレギンスを履いている。結婚して子供がいるようには見えない20代のファッションだ。恒例の、芸能人で言うと、サントリー金麦のCMに出ている女優さんによく似ている。ぼくの世代ではウエディング・ベルという歌を歌ったシュガーのひとりにそっくりと言った方が言い当てているかもしれない。なんか懐かしいような、前にもあったことがあるような、そんな不思議な気分がする。
「あのう、昔、シュガーっていう3人組がいたんですけど。その中の…」
「ああ、シュガーのモウリに似てるって言いたいんでしょう?
昔よく言われました。確か、亡くなったんですよね?」
「そうなんですよ。ぼく学生のとき、ちょっとファンだったので、
亡くなった時は、信じられませんでした。」
隣りのテーブルの客が近いせいか、亡くなった人の話をしてしまったせいか、なかなか本題に入りづらい。
「さて、めぐみさん、今日は取材と言うことでお願いします。」
「はい。・・・あっ、なんか外、雨が降って来たかも・・・。」
「あ、ほんとですね。」
「あの、すいません、洗濯物を干してきちゃったので、一旦家に帰ってもいいですか?」
「はい、もちろん。じゃあ、急ぎましょうか。」
ということでそこで何の話もできないまま、大粒の雨が降り出した中、二人は彼女の家の方へ小走りで向かった。まだ本格的な夏でもないのに、夕立の時のようなシャンパン色の低い空になり、強い雨が地面をたたいて上がるあの独特の空気の匂いが辺りを立ち込めている。
5分もしないうちに、彼女のマンションのエントランスらしきところへ辿り着いた。
彼女がオートロックの鍵穴にキーを差込み、ガラスのドアが開いた。エレベーターに入りドアが閉まると、ふと二人は我に返った。髪から服からびしょ濡れになっているのを互いに確認したからだ。目と目が合って、二人とも笑うしかなかった。そんな彼女の姿にあらためて色っぽさを感じた。人妻っていう響きはさらにそれを助長する。エレベーターという狭い個室で二人きり。服もピッタリと彼女の体の纏わりついて、体のボリュームやラインをダイレクトに感じる。濡れた髪を頬にペッタリ付着させたまま、上目づかいの彼女の視線を見ると、なんとも形容しがたいが、まるで犯されたいと願っているとしか想像できない。でもこれはぼくの妄想だろうか。
エレベーターのドアが開き、廊下を歩いて403号室の前で、彼女は鍵を取り出した。外の雨はどんどん激しくなってきている。
「あのう、上がってください。子供がいて部屋が片付いてないんですけど…。」
「お言葉に甘えて。」
ぼくは久しぶりにワクワクした。突然の大雨に感謝だ。
「すみません、お先に。」と言い、彼女は奥のリビングへと急いだ。ベランダの洗濯物を急いで取り込むのだろう。その辺はさすがに主婦だ。玄関にひとり残されたぼくは、下駄箱の上にある家族の写真を目にした。家族3人でディズニー・ランドでの写真だろうか。幸せそうなとてもいい写真だ。この写真を見る限りは、彼女はぼくのサイトであんな投稿をするとは想像もつかない。つくづくオンナってのは男より遥かに巧みな生き物だ。
「えっと、すみませーん、若村さーん?でしたっけ?」
遠くから大きな声でぼくを呼んだ。
「あ、はい。」
「どうぞ、入っててください!」
ぼくはこれから何が起こるかをあまり構えずに、靴を脱いで素直に入ることにした。
(つづく)

5 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

シュガー、懐かしいですね。
モウリってベースの人ですよね。
若村さんは、シュガーをオカズにオ◯ニーとかしてたんですか?
(僕はまだオ◯ニーをする年齢ではなかったのでしてません・・・。)

弱変態な面々 さんのコメント...

若村です。コメントありがとうございます。ぼくも当時モウリではヌケませんでしたが、純粋にめぐみさんに会った最初の瞬間に「どっかで見たことある顔だなぁ。」と思いまして、考えているうち「そうだ、シュガーだ!」と思い出したわけです。
「恵みの雨」2は現在編集中です。ちょっと時間がかかるので、直本さん、先にどうぞ原稿を上げてください。

匿名 さんのコメント...

期待値が上がりますね、この展開。
戸越でレギンス。しかもモウリ。

子供がいて、一度信用したら結構オープンになる。そんな主婦の感じがリアルに出ていますね。早く次が読みたいです。

匿名 さんのコメント...

戸越とエロス。似合わないようでいて、案外密接なのかもしれないと思った今日この頃。
戸越銀座のユルキャラ「戸越銀次郎」もビックリでしょう。

弱変態な面々 さんのコメント...

みづエロスさん、ご無沙汰です。
彼女のケータイには戸越銀次郎の弟、
プチ銀次郎のストラップがついていました。
ユルキャラに見えても
実際は変態と隣り合わせです。