
若村です。今日会うのは露出フェチの飯倉加世さん(仮称)。23歳、大学院生。
電話での話によると、普通の「露出フェチ」とは少し違うようだ。
その辺のところを詳しく訊いてみたい。
夜、駒沢通り沿いのファミレスで待ち合わせることにした。
約束の時間を10分ほど過ぎて、加世は入ってきた。
電話で話したぼくが被っているキャップを見つけ、こちらに近寄ってきた。
「若村さん?ですよね。すいません、遅れちゃって。加世です。」
「はじめまして、若村です。どうぞ、座って。」
かなりの美形だった。背が高く、170センチ近くはあるだろうか。
顔立ちは整っていて、大胆なミニのせいか、脚が長くスラッとしている感じだ。
モデルぽいというか、いわゆる日本人的な体系ではない。
それにかけているメガネが、ちょっと街で偶然見かける芸能人の雰囲気がある。さすがに露出系だ。
「もう食事はされましたか?」
「いえ、それがまだなんです。」と羽織っていたカーディガンをたたんで横に置いた。
「ぼくもまだなので、食べましょう。今日はおごります、っていってもファミレスですけど…」
「わあ、うれしい! 実はお腹減っちゃってて。」
歳の割りには、大人っぽくて、頭が良さそうな印象を受けた。
二人でファミレス特有の割安なコースメニューを頼んだ。
ウエイトレスに注文を繰り返されている時の妙な間で、目と目が合い、
何かきっと同じ事を感じているんだろうなぁ、と互いに思っている気がした。
「あのぉ、ぼくのサイトをよく見てもらっている、ということで…」
「はい、そうなんです。いいですよね、あれ。
えっちなんですけど、なんかこう、
普通と違うっていうか、よくあるエロなものと違いますよね。」
「あ、どうもありがとう。そう、巷のエロサイトはあんまり好きじゃなくて、
いろいろ考えた挙句、あんなサイトになってしまったんです。
あのサイト、加世さんのどこに刺さったんですか?」
「なんていうか、あの、決まりきったカテゴリーに分類されていないところがいいですよね。
大抵はカテゴリーから選んでいくじゃないですか。」
「はいはい。」
「そもそも私は、いつもカテゴリーから調べたくないんです。」
「ふうん。ところで加世さんはいま、確か大学生?」
「はい、院生です。」
「あ、失礼。どこの?」
「T工大です。」
「ほう!…何の勉強を?」
「社会理工学といって、ちょっと説明が難しいんですけど、
ううんと、人間の行動のいろいろなことを科学的に考える、というようなことです。」
「へえ、見た目もそうですけど、頭がいいんですね。」
「はい。頭はいいですよぉ(笑)」
美形で、スタイルも良くて、頭もいい。
まさに鬼に肉棒?、いや金棒。
「なぜ、カテゴリーが嫌なんですか?」
「だって、人間ひとりひとり違うのに、便利だからといって何々タイプと決めつけられると、本質的じゃなくなってしまうし。
この前だって、引越しで家を探すのに、何々沿線か?とか、マンションか一軒家か?とか、予算は?とか。
すごく気に入る物件なら、マンションだって、何線だっていいのに。
そんな風な探し方しかできないことに、すごく不満に思ったんです。そんな感じです。」
「うん、それはまったく同感。ぼくもそうです。」
ウエイトレスが料理を運んできた。
「チキンサラダプレートのお客様?」
「あ、はい。」とぼくは軽く手を上げた。
そして二人にプレートが並び、二人とも「いただきます」をした。
「今だって、そうですよね。」と加世は小声で続けた。
「だって、さっき若村さんがそれを頼んだのを彼女、知ってるはずなのに、
なんでまた訊くのだろう?って思うんです。」
「確かに。」
「カテゴリーやシステムで便利になっちゃってるから、
そこにハマった行動に、人間、つい、なっちゃうんです。」
「さすが!人間行動学部。」
「ビミョーに違いますが。。」
「ところで加世さん。加世さんはつまり『露出フェチ』とは言えないんですよね?」
「それもビミョー。言えるといえば言えるんですけど、言えないといえば言えない。私、やっぱ理屈っぽいですかね?よく人に言われるんですけど。」
「んん? 頭がいいだけなんじゃない?」
二人とも笑った。食べながら会話がはずんでいく。
「結局、加世さんのフェチを何て表現したらいいんだろう?」
「難しいですね。」
「具体的に、どんなことに興奮するの?」
「んん、私の場合はねぇ、人に見られる環境で、人に見られないように、
ギリギリ危ないことをする、ってことかな。」
「たとえば?」
「たとえば? そうねぇ。普通に電車の中で、オナ、するんです。」
「ええ!マジですか?」
「うん。たぶん、気づかれてはいないと思うんですけど、誰かに気づかれてるかもって勝手に想像すると、すごく興奮するんです。でも本当に気づかれちゃうのは、怖くてできない。」
「それで最後まで? そのぉ、イッちゃうんですか?」
「はい。ほぼ毎回。」
「へえ!」
「大学でもよくやります、講義中に。」
「! スリルが刺激として必要なんですね?」
「ええ、たぶん。」
「それは何だろう?確かに露出フェチってことでもないなぁ。視漢され妄想フェチかな?
ねえ、加世さん。加世さんてスタイルいいし、モデルとかやってないんですか?」
「やってました。ちょっと前までは。バイトで。
その頃もやっぱり、見られることにちょっと快感があって。
実は浅草のストッリプ劇場でバイトしたこともあるんですよ。」
「すごい!ストリップを?」
「でもすぐ辞めちゃいました。1週間踊りの稽古をして、
デビュー初日に辞めちゃいました。」
「それは何で?」
「なんか、やっぱ本当に見られるのって怖いんです。視漢され『妄想』フェチって言えてるかもしれない。
ただ、男の人が見ている目、目つきとか、見ている表情とか、なんかヤラシくて。あれがすごくいい。
よく駅の階段なんかで、女子高生が先に昇っていると、おじさんたちがチラチラ見るでしょ。
私、あの目つきを見ると、汚くて嫌なんだけど、なんか脳の奥があつ~くなる感じがするの。」
と話す語尾で目を閉じた。加世はその目つきを思い浮かべているようだ。
「うん、それはわかるような気がする。」
「だからね、あの目つきで自分が見られてるって想像すると感じちゃうんです、たぶん。」
「それにしても加世さんの今日の格好、セクシーですね。」
「さっき初めて会った時、私の脚、目を盗んで見てたでしょう?」
少し怒ったような加世のその表情は、なんだが前々から知り合いだったような感じを覚え、二人の精神的な距離を急に接近させた。
「そりゃそうだよ。そのスタイルでこんなミニ履かれたら、誰だってソコに目が行くに決まってるじゃん。」
と、こちらも少しフランクな言い方ができた。
「私、男の人のその目つき自体は、もっと見たいの。だからこんな格好をしちゃうのね。
でも、下着履いてないってとこまではわからないでしょ?」
「えっ、ええ?ノーパンなの?」
加世は少し含みあり気に頷いた。
(つづく)