2008/05/12


午前0時、ぼくは、駅からアパートに向かって歩いていた。
ひと気はなかったが、10メートルくらい前を一人の女性が歩いている。
暗がりで、容姿や年齢はわかりにくかったが、
ハイヒールを履いていることは、その音でわかった。

その途中、都営住宅に面した小さな公園がある。
その小さな公園にさしかかる時、前を歩いていた女性が急に右に折れた。
どうやら、その小さな公園に設置されている小さな公衆便所に入ったようだ。
とっさに周りに人がいないのを確認し、ぼくも忍び足でそこに向かった。

個室のドアに、すかさずそっと耳をあててみた。
「じょぼ、じょぼ、じょぼ、じょぼ、じょぼ、・・・。」
ぼくは思わず唾を飲んだ。
思ったより長く続いたその音は、不均一な間隔の、
「ぴちゃ、ぴちゃっ・・・」という音で終わった。

中で水を流す音が聞こえたので、ぼくは公衆便所の裏に回って息を殺した。
ハイヒールの音が遠ざかるのを確認してから個室に入り、鍵をかけた。
消費者金融のチラシの入った使い残されたポケットティッシュが置いてあった。
手に取ってみると、少し濡れている感じがした。